Q:当社はスポーツクラブを経営しており(インストラクター10名程度)、これまでの受講者の受講種目や受講期間、習熟度、年齢、性別などを詳細に記載した顧客名簿を作成し、マル秘マークを付けてカウンター内側の、顧客からは見えないところに保管していましたが、当社の元従業員Aが、最近独立し、当社と同様のプログラムで新たにスポーツクラブを立ち上げており、立ち上げにあたって顧客名簿を持ち出して利用していると思われます。おそらく会社に無断で顧客名簿をコピーし、それを持ち出したものと疑われます。Aに対して顧客名簿の使用差止め、廃棄、場合によっては損害賠償を請求したいと思いますが、いかがでしょうか。
A:これは、不正競争防止法の「営業秘密」に対する不正取得、使用に関する問題であり、Aの行為がそれにあたれば、貴社はAに対して、顧客名簿の使用の差止めや廃棄、場合によっては被った損害の賠償を請求することができることになります。ただ、受講者にとっては誰とどんな内容の契約を締結するかは自由ですので、Aの名簿使用により締結した受講契約自体を無効にすることはできません。失った顧客については、損害賠償で調整することになります。
Aが会社に無断で顧客名簿を持ち出したことが立証できるのであれば、Aの行為は情報の不正取得使用になりますので、貴社の顧客名簿が「営業秘密」にあたれば、Aに対して名簿の使用差止めなどを請求できることになります。
では、貴社の顧客名簿が「営業秘密」にあたるのでしょうか。
「営業秘密」にあたるかは、①秘密として管理されていること(秘密管理)、②事業活動に有用であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)により判断されます。
「秘密管理」の判断としては、物理的・技術的管理方法として、㋐他の一般情報との区別、㋑秘密である旨の表示、㋒保管場所等にアクセスできる者の制限、㋓保管場所の施錠などの措置が求められ、人的管理方法としては、㋔就業規則、秘密保持契約書、誓約書等により情報を取り扱う者に秘密保持義務を課すことなどが必要と考えられ、事業規模や情報の性質などにより相対的に判断されるこということになります。
本件の場合、名簿へのアクセス権者の制限はないようで「秘密管理」といえるか疑問の余地があるといえます。ただ他方で、貴社は、顧客名簿にマル秘マークを付けて、カウンター内側の顧客からは見えないところに保管していたとのことですので、貴社の事業規模から考えて採りうる一応の対策をしていたと考え、①「秘密管理」の要件が認められる方向で考えてよいでしょう。
また、名簿の内容も詳細に渡っており②事業活動への有用性もありといえるでしょう。これは③非公知の事実でしょうから、総合的に考えて、貴社の顧客名簿は「営業秘密」ということができるでしょう。
以上から、「営業秘密」の侵害を理由に、Aに対して顧客名簿の使用差止め、廃棄、損害賠償を請求することができます。
